環境省平成17年度主体間連携モデル事業委託業務(省エネ住宅1)

長寿命住宅小野寺家100年の大空間


長寿命次世代住宅小野寺家の施工手法

有限会社安井設計工房副社長
宮城学院女子大学非常勤講師
安井 妙子

株式会社阿部和工務店 現場担当
佐々木日奈子

小野寺家改修工事は、2005年5月から12月までの7ヶ月間にわたった。今回、古民家改修の施工のうち、特に重要な3項目、A 構造補強、B 断熱・気密・換気、C 暖房、を取り上げ、施工手法を写真を示しながら報告する。

A 構造補強

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1)

1)床組解体

 既存の大引、根太等の1階床下地組は、痛みが著しく、新たに下地を組み直すために解体撤去し、状態の良好な床板は釘を取り除き保管しておく。

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2)

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3)

2)、3)耐圧盤下地、打設

 軸組修正を行なう際に、ジャッキや支柱を支持する耐圧盤および蓄熱体として、コンクリートを打設する。下地一面にポリエチレンフィルム*1厚さ0.2mmを十分に重ね代をとり、敷き込む。ペリメーター*2 900mmの範囲にポリスチレンフォーム3種b*3厚さ30mmを敷き込み、冷気が地盤を介して建物内へ回り込むのを防ぐ。こうして、防湿と蓄熱体としての役割も確保する。ワイヤメッシュを敷き込み、耐圧盤コンクリート厚さ100mmを打設する。既存柱脚部は、軸組修正に支障がないように柱の周囲に型枠を組み、コンクリートが木部に接触することを防ぐ。当該部分は軸組修正の後、防湿材を施し、コンクリートを充填する。

4)軸組修正

* 柱は長年の不同沈下と経年劣化により水平・垂直に傾きが見られる。ジャッキや支柱を既存の内法(うちのり)材等の下部と、今回打設した耐圧盤間で支持し、軸組の修正を行なう。小野寺家の構造は、差鴨居(さしがもい)が柱にホゾ差しではなく、柱断面を小さくして差鴨居を貫通させている。この地方ではオトシナゲシと呼ぶ。したがって差鴨居を持ち上げても沈下した柱は動かず、オトシナゲシが上がっていくだけである。そのため、既存柱数本を仮の角材で一体につなぎ、その角材をてこの原理で持ち上げて修正をした。

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5)

5)柱脚補強

 軸組修正の完了後、4寸×5寸スギ材の補強材を用いて既存柱の脚部を挟み、ボルトで縫う。土間上に角材をはさみ込み、桁行方向に角材を渡した上に、梁間方向の角材を渡す。この補強により、柱脚を固定し、不同沈下を防ぐ。取り外した既存の貫穴跡は、堅木(かたぎ)埋木(うめき)した。

6)壁・天井 解体

 昭和35年に改修した際に取り付けた天井・壁の一部を取り外し、既存の木部を現わす。当初からの土壁は蓄熱体として有効であるため、劣化の激しいものや、納まり上不具合が生じるもの以外は、できるだけ落とさずに残す。

7)耐震壁

 これまで開口であった部分に、国土交通省告示1100号*4に基づく耐震壁を新設する。壁量を増すことで建物全体の地震時の変形を少なくすることができる。

8)中央の柱の補強

* 田の字型4室の中央に位置する柱は、4方向から内法材が取り付き、負担する荷重が特に大きいため、柱断面を増すことを目的として、添柱をボルトで縫い付け、既存柱と一体とした。その上で、耐震壁を下図のとおり施工する。

B 断熱・気密・換気

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9)

9)床下断熱部分(下部をみる)

 建物正面から上手側面に廻る縁側部分は、縁框(えんがまち)下のはめ板が伝統的なものなのでそれを残すため、土間を外周から見えない位置で打ち止め、ポリスチレンフォーム3種b厚さ50mmを立ち上げる。これに連続するように、縁側の床下にネオマフォーム*5厚さ30mmを張る。立ち上がり部分を貫通して、内部側へ給気用ダクトを配管する。

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10)

10)床断熱部分(上部施工中)

 床と壁との取り合いは、断熱・気密が切れやすいので注意する。断熱は、壁と床との不連続部分に、ネオマフォームをはめ込む。気密は、床の気密用シートを長めにのばしておき、壁の室内側に巻き上げることで連続させる。

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11)

11)換気−給気側

 床下の立ち上りを貫通し、床下に配管するダクトには、給気側に結露防止用グラスウールを巻く。建物全体の換気方式は、縁下のはめ板の隙間を介して、立ち上り部分の給気口からダクトで自然給気を行なう。床のスリット等から室内へ送られた空気は、天井裏に設けた換気扇から排気される、第3種換気である。

12)防音床

 ナカマ上部にあたる二階床は、一階の天井板を兼ねているので、ナカマが寝室であることを配慮し、防音の目的でグラスウール*6 96kg/m3厚さ15mmを敷き込む。

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13)

13)壁の断熱仕様(内貼断熱)

 大きな外観の変更をしない設計方針であることから、正面及び背面外壁の2階部分の既存漆喰壁及び、新設耐震壁の室内側に断熱材を施工した。既存土壁の室内側に断熱材を接着したうえ、全面に気密シートを貼る。ボード下地材で固定する。

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14)

14)壁の断熱仕様−1(外貼断熱)

 下見板張り仕上とする下手側面(そくめん)腰壁と背面内法下部外壁は、外貼断熱とし、土壁の蓄熱を利用することにする。外周壁面の倒れに応じて軸組修正用の下地を組み調整して、垂直な耐震壁を新設し、断熱材を施工した。増築部分と正面の一部外壁で珪酸カルシウム板張り*7、吹抜け仕上げとする部分も外貼断熱とする。

15)壁の断熱仕様−2(外貼断熱)

* 二階縁側内部の一部非断熱空間部分は、外周より900mm入り込んだ位置で土壁の室外側に断熱施工を行なう。
 以上、13)、14)、15)の壁構成材料の基本仕様を次に示す。
@木下地(もくしたじ)組(垂直の傾きや壁仕上のチリ寸法確保に従って断面寸法を決定)
A構造用合板厚さ9mm(耐震用)
Bネオマフォーム厚さ30mm(断熱材)
C胴縁(仕上げ材に合せて取付間隔を決定)
D仕上材+仕上塗材
 ネオマフォームの継ぎ目には気密テープを張る。取合いに隙間が生じる部分には気密テープまたは現場発泡ウレタンを充填する。

16)気密施工−1

 外壁の上部の既存漆喰塗と下部の下見板張りとする上手側面および背面などは、内断熱と外断熱とが同一壁面のある高さで切り替わる。それにより断熱・気密は不連続となる。その事を解消するため、既存土壁を介して外部と内部の気密を連続させ、断熱材の重ね合わせを取ることで熱橋ねっきょう*8の防止に努めた。

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17)

17)気密施工−2

 増築部など、垂木間(たるきかん)断熱と壁断熱との取合いは、断熱・気密が連続しにくい。桁けたの上に気密シートを先に張ってから垂木(たるき)を取り付ける。切妻の場合、母屋(もや)は気密層を貫通せざるを得ないので、周辺を丁寧に気密施工する。

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18)

18)天井断熱仕様

 昭和35年の改修で整備したトラス小屋組と瓦屋根を残すため、屋根面断熱ではなく天井断熱とする。次世代省エネ基準*9では屋根面の断熱材にはネオマフォーム厚さ50mmが必要であるが、大きな屋根と小屋裏大空間の日射遮蔽(しゃへい)効果を期待して、厚さ30mmとしている。段差、貫通部分、軒先などで、取合いに不連続部分が多々生じる。断熱材と既存木部が接触する部分は、木材を断熱体とみなし、木材を介して断熱材が連続するものと考え、現場発泡ウレタンを隙間に充填して連続させる。この場合、木部は熱橋となる。

19)ロバタの換気−排気側

 小屋裏のトラス部材に換気扇を吊り込む。(写真集「昭和35年改造の小屋組」参照)

20)ロバタの換気能力

 給気孔をロバタのヨシズの上にかくれている天井面に設置して小屋裏に導き、妻側の隙間からゆるやかに排気する。換気扇は1時間当り170m3のものを取付けた。

C 暖 房

21)暖房機器

 一階各室に、輻射式パネルヒータを設置する。自立式のもの以外、ほとんどが漆喰仕上の壁面に取付けている。漆喰塗仕上の後の器具取付による仕上面への損傷を防ぐため、金物取付位置に化粧下地を入れる。

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22)

22)温水配管

 屋内階段下にFF式ボイラを設置した。温水は、蓄熱用のコンクリート土間上に設置したヘッダーから床下の配管を通って各室へと送られる。床下は室内空間扱いであるので、配管からの放熱が、コンクリートにたまり床下温度が上昇することによって、床が温まり快適になる。

23)熱 源

 給湯は深夜電力利用の高効率給湯器エコキュート、厨房はIH調理器と電気でまかない、灯油の使用は暖房のみである。

[用語解説]

*1 ポリエチレンフィルム:地盤からの湿気を防ぐために土間コンクリート下に敷き込むシート。0.2mmは比較的厚手のもの。
*2 ペリメーター:建物外周部分。外気の影響を受け、熱的変動が大きい。
*3 ポリスチレンフォーム3種b:押出発泡成型の板状断熱材。熱伝導率は0.028W/ (m・K)で、圧縮強度の高いタイプ。
*4 国土交通省告示1100号:壁に張る材料及び下地の寸法・形状・間隔等により壁の水平耐力を負担する能力を規定するもの。
*5 ネオマフォーム:板状断熱材の一種で高性能フェノールフォームの商品名。熱伝導率は0.020W/(m・K)で現在市販されている断熱材の中では最高の値である。
*6 グラスウール96kg/m3:ガラスを繊維状にし、1m3当り96kgにまで圧縮した板状の防音材。音が圧縮したグラスウールの繊維の間を通る間に減衰する性質を利用している。
*7 珪酸カルシウム板:セメントに珪酸カルシウムを混入し、可塑性を向上させた外壁材で、防火性能に優れている。
*8 熱橋:ヒートブリッジともいう。断熱材の不連続部分をいい、断熱性能が悪く、そこが熱の通りやすい橋がかかるようになることから、このように呼ぶ。
*9 次世代省エネ基準:1999年3月に改正、告示された「住宅に係るエネルギーの使用の合理化に関する建築主の判断の基準」という長い名前の規程で性能規程と仕様規程が有る。ここでは仕様規程にもとづき設計している。



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