環境省平成17年度主体間連携モデル事業委託業務(省エネ住宅1)

長寿命住宅小野寺家100年の大空間


環境省平成17年度主体間連携モデル事業委託業務(省エネ住宅1)
主旨「断熱気密改修による住宅の長寿命化促進」

住まいと環境 東北フォーラム
理事長 吉 野  博

 日本は昭和20年(1945年)に太平洋戦争に敗れました。戦争末期、アメリカ等連合軍による空襲で、多くの都市の住宅が大量に焼かれ、終戦とともに応急住宅がたくさん建ちました。物資も不足する中で、質より量を満たすため、粗悪で小さな住宅が大量に建ちました。それは欧米から「ウサギ小屋」と揶揄(やゆ)されても仕方のないようなものでした。それでも、家を焼かれた人々や、海外から引き上げてきた人々が何とか住むところを確保できたのです。

 日本は昭和40年代(1970年)に高度経済成長期を迎えました。終戦から20年以上を経て、東京オリンピックも開かれ、経済にゆとりができてきたのです。昭和20年代に応急に建てられた粗悪な住宅はゆとりある生活に合わせるため、次々と建て替えられていきました。このとき、戦争前からある伝統的建築構法で建てられたりっぱな住宅も、生活習慣や社会情勢に合わなくなったという理由でたくさん壊されていきました。

 1990年代はバブル期を迎えます。この時期も日本の経済は急速な成長と変化をとげ、より新しくて便利な電化製品や住宅機器が売り出されて、社会の状況が一段と変化しました。それについていけない住宅の多くが「直しても結構お金がかかるから、新しく建てたほうが良い」という考えのもとに次々と建て替えられました。
 このように日本の住宅は約20年ごとに大量建て替えの時期を経験しています。日本の多くの住宅は約20年の寿命しかないといっても過言ではありません。言い方を変えれば20年でごみになるものを作り続けていたともいえます。

 いま、地球温暖化の弊害が叫ばれています。私たち人間の営みが、地球の気候まで変えるほどに肥大化してしまった結果といえます。「もう耐えられないよ」と地球が悲鳴を上げています。
 気候の変化で、温度などの環境が変わり、多くの動物や植物がその地で生育できなくなっています。魚が突然獲れなくなったり、いままで見たこともない植物が生え始めたりしています。このことはそれを餌にしている他の動物たちに対して大きな影響を与えます。こうやって、全ての動物や植物は繋がりあっているのです。これを「生態系」といっています。英語では「エコロジー」です。この生態系の輪がどこか1箇所切れただけでもさまざまな不具合が起こります。その原因を作っているのはたいてい私たち人間です。
 かけがえのない地球を健康な状態に戻したうえで私たちの大事な子どもたちに手渡すには、地球への負担を減らし、生態系の輪を修復しなければなりません。
 それでは建築に携わる私たちは、何をしたら良いのでしょう。
 そこで20年ごとに住宅をごみとして捨てることなく100年を越える寿命を与えるほうが、ごみの量が減り、地球に与える負担が減らせると考えました。古いものから新しいものまで、住宅の寿命を延ばす手段を考えないまま、建て替えを促進してきた私たち建築関係者は、反省を込めて『断熱気密改修による住宅の長寿命化促進』で省エネ住宅に変えることを提案し、広く普及するよう努力しています。
 もちろん新築住宅も、省エネ住宅にして地球への負担を減らしてほしいと思っています。

 ここに取り上げた長寿命住宅小野寺家は、建築後ちょうど100年たちました。その間に建築後55年たった昭和35年(1960)に大修理をしています。もうこの時点でも長寿命ですが、平成16年(2004)今日の生活や社会に順応するように2度目の修理をして若返り、魅力的な100歳を迎えました。小野寺家は少なくも200歳を目標に生き続け、3度目の修理に備えます。このことで先祖が残した日本の伝統的建築文化も守った上で、地球への負担が減るとしたらとても喜ばしいことです。


よしの ひろし  東北大学大学院工学研究科都市・建築学専攻教授



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