環境省平成17年度主体間連携モデル事業委託業務(省エネ住宅1)

長寿命住宅遊佐家三百年の風格


地球温暖化と生活を考える

東北大学大学院環境科学研究科
教授石田秀輝

1 プロローグ

図1 エコロジカル・フットプリント

図1 エコロジカル・フットプリント

図2 地球温暖化メカニズム3)

図2 地球温暖化メカニズム

 1980年代半ばからは、毎年、世界のどこかで異常気象による甚大な被害が発生し、地球環境の劣化は我々の生活に直接影響を与え始めたことを実感させている。
 地球温暖化、砂漠化、オゾン層の破壊等々、多くの環境問題が種々の形で直接的に、あるいは間接的に我々に影響を与えているが、これらの環境問題の根底には、急激な世界人口の増加と経済発展=消費の構造を変えられない、先進国絶対主義が生み出した結果といっても過言ではない。経済原理主義からの脱皮が言われる所以である。
 では、具体的にどの程度深刻な問題になっているのであろうか? 図11)にはエコロジカルフットプリントの結果を示す。これは、我々が暮らしてゆくのに必要な土地の面積をグローバル・ヘクタール(G・ha)として表現したもので、人口やエネルギー/資源の消費が減少すれば、小さな値となる。その値は現在、135億G・haで、一人当たり2.2G・haとなる。残念ながら、地球の再生能力は110億G・ha、1.8G・ha・人となり、これは、我々の活動が地球の再生能力をすでに0.4G・ha、22%も超えていることを示している。すでに、我々は地球の貯金を食いつぶしながら生きているのであり、今のままでは、地球が1.2個なければ暮らせないことになる。そして、もし世界の人々が日本人やアメリカ人と同じ生活をするなら各々2.4個、5.6個もの地球がなければ生活を維持できないのが現実である。

2 地球温暖化問題2)

 地球温暖化問題は、このような大量のエネルギー消費の結果生まれた環境問題である。温暖化は、大気中に赤外線を吸収する性質のガス(温室効果ガス)が蓄積することにより、地球の気温が上昇する現象である(図2)。温室効果ガスには、二酸化炭素やメタン、フロンガスなどがあるが、圧倒的に量が多く、最も影響の大きいものは二酸化炭素である(全体の60%)。二酸化炭素は、化石燃料の燃焼に伴って発生するため、産業革命以来、人為的活動に伴って大量に排出され、その濃度は産業革命前の1750年に288ppm(0.028%)であったものが、2000年には368ppmとなり、過去42万年間で最高の値を示した。この結果、20世紀の100年間に世界の平均気温は0.6±0.2℃上昇し、1990年代の10年間は、過去1000年間でもっとも温暖な10年である可能性が示されている。現在、二酸化炭素は炭素換算で人為的に約62億トン/年が排出され、そのうち14億トンを陸上(土地や植生)が吸収、17億トンを海洋が吸収しており、残り32億トン(約1.5ppm)は大気に蓄積され続けている。言い換えれば、温室効果ガスの人為的な排出量を地球の吸収量と同じにする(「カーボンニュートラル」の地球)には、発生量を50%削減しなければならないことになる。では、どの濃度水準にどの程度の時間をかけて安定化させてゆくのか?最近の報告では、産業革命以前に比べ平均気温上昇が2℃を超えると生態系、食糧生産、水供給に深刻な影響が出て不可逆的で破壊的な現象も起こり得ることが明らかになってきており、このためには2050年ころまで排出量を半減し550ppmで安定化させる必要があるといわれている。

3 生活の中の温暖化ガス

図3 家庭部門のエネルギー消費

図3 家庭部門のエネルギー消費

 このような大きな目的への世界的な取り組みの第一歩が1997年12月京都で行われたCOP3で、先進国および市場経済移行国の温室効果ガス排出削減目的を定めて京都議定書が採択され、2005年2月16日発効された。日本は世界に対して2012年までに1990年比−6%の温暖化ガス削減を約束した。しかしながら、産業部門は目標をクリアしたものの運輸・民生部門は大幅な目標未達で、日本全体では+12.1%(2002年)となっている。特に家庭部門では、1990年比28.8%を示し、猛烈な勢いで排出が伸び続けている(図3)。これには、単身や夫婦2人暮らし世帯が増えるという家族形態の変化や世帯数の増加もあるが(図4)、一方では人口減少も明らかな今、抜本的な暮らし方の変革による削減手段を講ずる必要に迫られていることも事実である。このような、新しい暮らし方の提案は、単に温暖化ガスへの対応だけを問題としているのではない。エネルギー自給率4%のわが国(原子力を入れても20%)が、先進国として世界に範を垂れる責務ともいえるのではなかろうか。

4 生活価値の不可逆性3)4)

図4 家族形態/世帯数の変化
図4 家族形態/世帯数の変化
出展:
「高齢者白書」2001年度版、「日本の世帯数の将来推計」
(国立社会保障・人口問題研究所)より作図

図5 江戸時代に戻ることはできない

図5 江戸時代に戻ることはできない

 生活エネルギーの消費を革新的に減少させることは容易ではない。1973年のオイルショック以来多くの手段が講じられたが、家庭エネルギー消費は伸び続け、現在1973年比219%という高い値を示している。
 このエネルギー消費拡大の駆動力は、世帯数の増加/モンスーン地帯での暮らし方のあり方/人間という種だけが持っている生活価値の不可逆性だと考えている。特に、生活価値の不可逆性は、環境問題を扱う上での重要な切り口である。生活価値の不可逆性とは、「人は一度得た快適性や利便性を容易に放棄できないし、放棄しようとすれば苦痛が伴う」ことを意味する。たとえば、江戸時代は、今よりはるかに循環型社会であったといわれる、では江戸時代の生活が今出来るだろうか?答えはきっとノーであろう、戻れないからこそ環境問題が起こるのである。江戸時代から学べても、戻ることは容易ではない(図5)。10年前は持っていなかったはずの携帯電話にもかかわらず、今手放すと不便で困ってしまうことも、同じである。この生活価値の不可逆性を肯定しながら、資源やエネルギーの消費を抑えられる暮らしが出来るかどうか。言い換えるなら、気持ちよく暮らしながら資源やエネルギーを使わない暮らしを提案できるかどうかにかかっている。これには従来の延長、すなわち、快適=エネルギー消費ではない新しい暮らし方の文化つくりと新しい切り口での技術開発が重要になってくる。

5 エピローグ

 メンタルな部分での、新しい暮らし方の文化つくりと新しい切り口の技術開発は一朝一夕に創出できるものではないかもしれない。ただ、日本には「もったいない」という文化を基本的に持っており、これが「かっこいい」につながる仕掛けがあれば、一気に新しい暮らし方ブームが起こるのではないかとも思う。一方、新しい技術開発のひとつの切り口は、自然のすごさを賢く活かすものつくりであると思っている。自然のすごさを科学の目で観(Nature Mimicry)、それをリ・デザイン(Nature Tech.)することで、私たちが当たり前と思っていた自然の生業なりわいを生活の中で活かすことが出来るはずだと思っている。

参考文献
1) Living Planet Report 2004
2) IPCC 第3次評価報告書 2001
3) どうなる地球?どうする21世紀?環境庁地球温暖化防止啓発パンフレット(1997)
4) 石田秀輝 新しいものつくりを考える Nature Tech.の創生、材料マニュアル2005、潟eクノプラザ、14−17(2005)
5) 石田秀輝 地球環境とものつくり、Ceramic Data Book 2001(Technoplaza),18−23(2001)


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