環境省平成17年度主体間連携モデル事業委託業務(省エネ住宅1)
株式会社阿部和工務店 現場代理人
佐々木日奈子
私は、約6ヶ月間、宮城県登米市中田町の古民家を復権する現場に、現場担当者として携わった。建築後300年の古民家の復権工事がどのように行われたかを、施工の立場から報告する。
1)工程の流れを下表に示す。本稿では、この中の特に主要な工程を次の順序で報告する。
解体工事・土間工事・
1)工程の流れ 「1)」は本文の番号に対応する。〈以下同じ〉
2) 構造体を水平・垂直線と比較。
骨組みの沈下が目視で確認できた。
2)写真右側が山手になっており、地盤が悪いために柱が不同沈下し、最大150mmの傾きがあった。この傾きを調整するために、柱の4面を板で覆うことで垂直にしていた。覆っていた板を取り外し、床組と内装材を撤去し、骨組の実測調査が可能な状態にした。覆いがはずされた土間と座敷境の柱2本はシロアリの食害がひどく、食害の部分を取り去り、埋木をした。
3) 柱頭を残し切断されていた柱を
支柱で支える
3)構造上重要な、
4)
4)外周900mmが布基礎部分で、内部は蓄熱用の土間コンクリートである。土間コンクリートは、柱の傾きを修正する際にジャッキがめりこまないようにする役割も担う。外周900mmの部分は断熱材を敷きこむ。
5)
5)
6)既存の屋根は、
7)茅を下ろし、建物を軽くし、内法間で最大150mm傾きのある柱を水平・垂直に修正する。写真は土間コンクリートにジャッキとパイプサポートを支持させて柱を持ち上げ、内法高さを水平にしている。水平・垂直を修正するために使用した装置を図に示す。
8)水平・垂直を修正したことにより柱と基礎石との間に隙間ができた。ここに栗材のパッキンを挟み、柱を支持した。柱脚の両側には4寸×5寸の脚固め材をボルト締めとした。脚固め材とコンクリートとの隙間にもパッキンを挟み、柱にかかる
9) 山手背面は腐朽等のため、当初の柱が1本も残っておらず、取り替えてあったがそれも腐朽していた。それらの柱や土台は、ジャッキで建物を持上げ、新規材に取り替えた。柱と土台を浮かせたまま、背面と側面・正面の一部分に基礎を新設した。
10)基礎の立ち上りにスタイロフォーム3種b50mmを同時打込とし、基礎下にスタイロフォーム3種b30mmを幅900mmにわたって敷込み、外周部分を断熱している。土間コンクリートと基礎の繋ぎ目に亀裂が入らないようにワイヤメッシュを基礎部分まで延長した。当初は深基礎にする予定であったが、逆梁方式の基礎に変更したことから、基礎下の地盤の凍結被害を防ぐために、スカート断熱方式に変更した。基礎ができるまで建物を浮かせたままなので、見た目に不安定で、早く基礎を造って建物を降ろさなければならないと必死だった。この頃に台風の接近が数回あり、関係者一同その度に緊張していた。基礎ができ、建物がその上に降ろされると、ようやく安定した建物に見えてきて、工事の半分くらいが終わったような気持ちであった。
11)基礎の新設工事と同時期に柱と土台を持ち上げた状態で、屋根下地をつくる工事が、その上部で進行した。既存の小屋組の上に、茅葺型屋根の下地である新規の桁・母屋・隅木・棟木・垂木を掛けている。屋根の断熱材を張る前に、既存小屋組のススを高圧洗浄で本格的に掃除をした。この後小屋裏を現わす部分には、既存の竹垂木の上に新しく編んだヨシズを載せていく。
12)新設垂木の上に断熱材(ネオマフォーム厚さ50mm)を敷き並べ、継ぎ目を気密テープで塞ぐ。これと同様に壁にもネオマフォーム厚さ30mmを気密確保して施工し、外断熱工法としている。ネオマフォームは非常に細かい気泡で構成される熱伝導率の小さい断熱材である。図は正面せがい造の軒先まわり断面図。正面は
13)垂木上に断熱材を敷き込んだ上に通気垂木を掛け、屋根下地およびガルバリウム鋼板葺とする。屋根の通気は、鼻隠しに設けたスリットから給気を行い、棟に設けた蜂の巣構造の換気棟から排気する。
14)断熱・気密施工には24時間換気を併せて考える必要がある。本工事の換気計画は図の通りである。給気が青、排気が赤の矢印である。軒天井から自然給気を行ない、天井のヨシズの隙間から室内へ取り入れる。この空気を床下に設置した換気扇で排気する第3種換気である。その他に局所用換気扇を設ける。寒い時期に漆喰塗の工事を行ったことと、作業性向上のため採暖したことにより温度湿度ともに上昇し、窓際に大量の結露が発生した。
15)主要な壁は、国土交通省告示1100号に従い、耐力壁としている。床組と耐力壁は、修正した水平・垂直が元に戻っていないことを確認しながら施工した。当初柱は面が大きく、やや曲がりがある。これに対して新規の柱は面が小さく垂直である。特徴の異なる2本の柱に挟まれた壁は、取り合いに不具合を生じた。古民家の特性を考慮すると、大きく壁チリをとりたいのだが、下地材の寸法や釘の長さを、告示に基づいて施工すると、壁チリが確保できない部分がある。古民家の場合、特に部材の性格をみながら、構造と意匠との折り合いを
16)柱の痕跡などから、建築当初の状態が想定される部分は、それらに従って復原した。ナカマの格子、デイの格子は既存の痕跡および神奈川県に所在する重要文化財関家住宅を参考に、居間の無双窓は岩手県指定有形文化財村上家を参考にして復原した。
17)内部壁の仕上は大部分が漆喰仕上である。そのうち、もともと土壁がある部分は、ススによるアクが出る恐れがあったため、その防止策を決定するのに、壁を落して下地を新しく組むか、ススを固めてしまうか、など検討した。結果、ススを固めてしまう方法に決定した。下地として、水とプライマーを混ぜたものを、4回塗布している。この割合は、職長の経験から1、2回目が水3:プライマー1で、3、4回目が水2:プライマー1で行なった。その後、木部とのチリ際にシーラーを塗布し、漆喰にスサと砂を混ぜた中塗を施した後、上塗漆喰仕上とした。既存の土壁は平滑でなく、職長が下地処理にその都度工夫を凝らして美しく仕上げてくれた。
18)既存の木材は、風化や害虫による被害が著しいものが多く、埋木・剥木はぎきをした。既存材と補修材との違いを目立たなくするため、部位毎に色合わせをしながら塗装を行なった。塗料は自然の植物油からつくられたものを用いたので、既存材とのなじみがよく自然な古色が出た。
19)この他、電気設備工事は天井ふところのある部屋がほとんどないこと、床下空間の高さが少ないこと、土壁部分への固定方法などその都度配線方法を検討した。換気設備工事は取付位置や色が古民家になじむよう配慮した。暖房設備はクリーンヒーターが2台である。
20)施工者の立場から古民家改修工事全般を振り返ると、安全対策のさらなる確立が最も急務であると思う。品質面は遊佐家では確実な断熱・気密施工および迅速な構造補強への対応が鍵となった。今回は棟梁が手法をよく理解して対応してくれた。その一方、工事の効率と古民家の伝統的空間の復権は相容れないこともある。施工者としては古民家の特性を理解した上で工事管理に反映させなければならない。工事に携わり、民家そのものやそこに住む人から教わることが多く、日々勉強を重ねていくことが大切であることを実感した。